ぼうずの休日 夏休み特別編 part2
天平勝宝四年のオリンピック
皆さま、残暑も厳しい折ですがいかがお過ごしでしょうか?
最近の大きなニュースと言えば、東京オリンピックがついに開催されたことではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の流行下ということもあり、様々な議論や困難があったことと思いますが、
アスリートの皆様が力を発揮し、大きな事故もなく無事に終えられたということが何よりの結果だと思います。
そして、日本もメダルラッシュとして湧きあがりましたが、一方で現場の運営にかかわられたスタッフやボランティアの方々の尽力もまた、
金メダル級の働きだと言えるでしょう。
さて、このオリンピックはアスリートの祭典ですが、仏教にも日本の歴史に残る国家プロジェクトとしての祭典がありました。
平勝宝四年(西暦七五二年)五月二六日に行われた「東大寺大仏開眼法要」です。
この東大寺大仏開眼法要は、奈良時代に国家プロジェクトとして行われた大仏建立の最後に、
「開眼」つまり仏像の目に瞳を入れ、魂を入れるために行われた、世界的にみても大きな規模の宗教儀式でした。
この法要は、日本だけではなく、天竺(現在のインド地方)や唐(現在の中国)から仏教僧や知識人を招き、
当時の最先端の文化と知識を輸入して執り行われた国際色豊かな法要であったと伝わります。
その内容は五色の幡を立て、大陸から伝来した様々な仏教音楽と舞が披露され、
唐の仏教から輸入された四箇法要という形で法要が厳修され、非常に荘厳なものであったと伝わります。
『続紀』には当日の様子を、「仏法東帰してより斎会の儀、未だ嘗て此の如き盛なるはあらず」
(日本に仏教が伝来して以来、これほど盛大な儀式はなかった)と述べられています。
そして、この法要では日本で初めて行われたものがたくさんあります。
声明が公式に残る記録としては初めて唱えられました。このとき唱えられた声明が現在につながる声明の源流となりました。
また唐楽・林邑楽・高麗楽といった、アジアを中心とした音楽も披露されました。この時演奏された音楽が、今日に伝わる雅楽として継承されています。
法要にて厳修された声明や散華といった儀式は、現在行われている法要の骨子として、
宗派ごとに派生して受け継がれています。つまり、この時に行われた開眼法要が、
以降日本で行われた様々な仏教儀式・祭典のすべてのルーツとなっているといっても過言ではないのです。
まさに、この東大寺大仏開眼法要は当時の一大宗教祭典だったのですね。
いわば、この時の東大寺大仏開眼法要は当時の世界中の仏教芸術と文化の粋を競って行われた「仏教のオリンピック」と言っても良いのではないしょうか。
このように私たちの何気ない法要の中にも、この時に執り行われた法要式や雅楽の演奏が連綿と受け継がれ、
現在にまで伝えられいると思うと、なんとも感慨深いものです。
先師たちが残してきた様々な教え、儀式、それらをすべて含めた「法燈」を受け継いでいくことの大切さと重みもひしひしと感じる夏となりました。